みんなの文京広場『まわり舞台』

新井浩二 西地区2班/(株)東洋ハウス

7年前に耳の聞こえが悪くなったように感じて近くの病院で診察を受けました。診察後、医師に「大学病院を紹介します」といわれ、順天堂医院で検査を受けました。「鼻の奥の喉の部分に約3センチの癌があります。上咽頭癌(じょういんとうがん)のステージ 4Aです。至急入院して治療が必要です。」との話。晴天の霹靂でした。1週間ほどの間に仕事の引継ぎ、支部役員の皆様へ病状をお話しし、当時の小能幹事長に支部長代理をお願いし入院しました。患部への放射線照射、抗癌剤の点滴、上顎部の手術など過酷な治療と副作用を繰り返し、支部の皆様からの温かい励ましに救われ、幸いにも 6か月後に癌は消滅しました。「今後の5年間は経過観察期間です」と医師に言われ病後の生活が始まりました。医学誌を見ると、上咽頭癌のステージ 4Aの患者の5年後の生存率は50%以下でした。そこで、これから5年間は何が起こっても驚かない、何か今までと違ったことを始めようと思いました。そこで、三つのことをはじめました。
一つ目は、早起きです。朝6時前に起きて外に出て朝の空気をいっぱい吸ってから空を見上げ雲の流れる様子を見ながら朝のストレッチです。病後の弱った体に鞭打って体操、スクワットなどをします。体を動かせることが嬉しい。体幹を鍛えるのは、使わなくなった昔のゴルフクラブでの素振です。雨の日以外はしています。体幹はしっかりしてきましたが、ゴルフのスコアは年々下降線をたどっています。(これはセンスの問題?)
二つ目は、「帽子」を被ることです。抗癌剤の副作用で一度抜けた毛髪は回復途上でしたがやや頭がさみしくなってきました。季節ごとに材質や色、形など気に入ったものを被っています。オードリー・ヘップバーン主演の映画「麗(うるわ)しのサブリナ」でハンフリー・ボガートの帽子姿が渋くていいですね。このお話は新婚旅行の船旅に行く船のデッキでボガートが被っている帽子のつばの角度をヘップバーンがちょっと直してまた被せてあげる、というハッピーエンドで終わるストーリーがしゃれています。私も今、ボガートが被っていたような冬用のダークブルーのウサギの毛の帽子を被っています。うちのヘップバーンもおかげ様で私の帽子の趣味は認めてくれています。
三つ目はオペラを見ることです。テレビでは「オペラ座の怪人」など見ていましたが、生で見たことはなく、4年前の秋に妻と東京文化会館でヴルディ作曲の「椿姫」とプッチーニ作曲の遺作となる「トゥーランドット」を見ました。「椿姫」はパリの社交界を舞台にした悲恋の物語、世界中で最も上演回数の多い人気作品です。「トゥーランドット」はこれも異国の王子と敵対する国の王の一人娘と、奴隷女との三角関係の悲恋の物語です。劇中のアリア「誰も寝てはならぬ…」は愛の告白のメロディーで、最後に「必ず勝つ」と叫ぶところでクライマックスに達します。それで、フィギュアスケートの音楽に使われたりするのにピッタリなのです。初めての生のオペラはとても印象深いものでした。男女の愛憎劇はいつの時代にも永遠のテーマですね。その後は新型コロナにより残念ながら事前に予約したプッチーニ作曲の「トスカ」など海外オペラの日本公演が中止となってしまいました。プッチーニは 1920年代に自分のオペラの集大成を目指して「トゥーランドット」の作曲を始めました。最後の部分を作る途中でなんと!「咽頭癌」が発見され入院し手術を受けましたがその甲斐もなく1924年11月29日に66歳で他界しています。このことを知ってから私はプッチーニを身近に感じるようになりました。人生は回り舞台といいますが、またオペラが見られる日を心待ちにしています。